相毎モコ

400字で書くことを心がけ

調理の道程

つまみ食いって、なんであんなに美味しいんだろうか。
それは多分、空腹が最高のスパイスになるように、スリルが最上のスパイスになっているからだと、わしは思う。
まだ食べてはいけないというプレッシャー。意地汚いという罪悪感。見つかったときの背徳感。 そのすべてが精神的なスパイスとなり、つまみ食うそれの旨みをかなしきかな、引き出すのである。ハナ肇の言葉を借りれば、「分かっちゃいるけどやめられない」。
この旨みはどんな名シェフにも引き出せるものでなく、ただただつまみ食いという軽犯罪からにじみ出てくる調味料なのだ。
本当に不思議なのだが、食卓に並んでしまうと、皿に盛りつけられてしまうと、その旨みがことごとく死ぬのである。消滅するのである。
哀しいなあ。もっと穏やかに、和をもってこの旨みを享受することは叶わないのか。哀しいよ。くくう。

派生として、原材料に魅力がある場合もある。
ホットケーキの粉を混ぜたやつや、インスタントラーメンの固いやつである。
これらには完成品にはない、独自の旨みがある。
つまみ食いとはまた違うが、料理とは完成品だけでなく、その課程にも旨みがたくさんあるのだと思ってわしは生きてきた。
これからもそんな感じで生きていきたい。