相毎モコ

400字で書くことを心がけ

真夏の青春暗い青春

セイコーマートで青春が売られていることに気づいた。

 

赤坂の会社でそこの員をやっていた頃、当然のことだがランチタイムがあった。ランチタイムはランチを食べる時間、とされている。だからランチとしてリンゴを近くの青果店で買ってオヒスに戻った。

 

ランチタイムにリンゴかえ、太りたくないオーエルみたいなしとだよ、あんた。

と言う人がいるかもしれないがそれは間違いだよと僕は言いたい。

僕はその時、椎名林檎の「愛妻家の朝食」という歌に出てくる、「果物は煙草の害を弱めるから愛する男のために私は果物を買いに行ったのよ」という意味のフレーズを思い出していたから、リンゴを買ったのです。僕は煙草を吸うから。

 

オヒスの自席に座ってリンゴを齧っていると、横から「青春じゃん」という声があった。声の主は、経理のオネーサンだった。僕の右手の果実を指さして、「青春、ヒュー」と言っていた。

僕はその時、リンゴを齧ること、そのこと自体が青春そのものなのだと知った。なんだかそう言われてみると青春の感があった。外は真夏日で、庄内砂丘を思わせた。

 

僕が会社の員をやめるとき、その経理のオネーサンは、残念だよ、と言い、元気でね、と言った。挨拶をして会社を出たら、外はもう真夏日ではなかった。青果店に青春も売っていなかった。

 

そして今日、セイコーマートで青春を見つけた。青春ができると思った。青春を買って暗い部屋で青春を齧る。青春じゃん、という声とその主はここにはいない。青春はひとりではできないのです。

暗いところで物を食べるというのは、少しやらしい感じがする。