相毎モコ

400字で書くことを心がけ

驚きのネコ キャットフード男論

中高の時分。
髪を七色に染め、給食は自分のを多く盛る、アルトリコーダーをわざと忘れるなど不良行為を働いていた頃もあった。
しかし、20代半ばに印度という国で仏の教えに巡り会ってからはそれまでの人生すべてを改め、大日如来こと毘廬遮那仏のように真面目に生きようと頑張ってきた。
今では模範的なサラリー・マンとして、四方八方に謝り倒し、駅前で生命保険の広告が入ったPTを配る人のように名刺を配りまくる日々である。

模範的なサラリー・マンに求められる条件とはいかなるものか。それはまあ色々あるが、スーツをいつ何時においても着用する、これが鉄壁の条件だ。
というと「最近はそんなの流行らんね。現代はクールアンドダイバーシティ。個人の感性を尊重しようよ」みたいな事を言う人がある。確かにそうだ、蓋し正論である。
しかし、それは真面目にやることやってきた人に限った話だ。
真面目の年月がぺらぺらに薄い自分のような者は、スーツでも着ていないとサラリー・マンであることをいつしか忘れ、海外出張から帰ってこないと思ったら帰化・移住していた、なんてことになりそうで怖い。

三十路に近づいたからか、このところ何かを忘れることしきりで、スーツを着ない日が続くと自分が勤め人であったことを忘れそうになる。
勤め人である意識がなくなると当然、会社に出社することもなくなり、したがってサラリーがなくなる。サラリーがなくなること、これはキャットフードを調達する資金が消えることでもある。
なので、連休がとても怖い。

という話を国交省の知り合いに話したら、連休が怖いなんて生きてて愉快ですか、と言われた。
愉快か愉快でないか。
たとえ愉快でなかったとしても、男として生まれた以上、何かのためにやらないといけないことがあるんですよ、男には。
ありがちな男論をタテに、キャットフードを手に入れるため明日も着るぜ、スーツ。



以上の思いをし、近くのホームセンターで買ってきたキャットフード。
ところが、猫は一口食べただけで「これはもういらない。もっとうまいのが欲しい」と言いたげな目で見てくる。この時「好き嫌いしたらだめっ」などと声を荒げてはいけない。
お父さんライオンは子供ライオンを峡谷に突き落とします、というどっかの古い言葉がある。
保護者が可愛い子供を想って、あえて厳しい状況に対峙させ逆説的に愛情を示すことを云ったものだが以上の状況において、やはり猫とライオンは同じ仲間なのだと実感する。

この時、猫は今のキャットフードがただただ気に入らないのではない。
もっとうまいフードが買えるようなサラリー貰ってこんかい。キミならできるさ、と叱咤激励しているのではなかろうか。
と物事はポジティブに考えなければならぬ。ポジティブ、最高。
しかし、これでは子供ライオンがお父さんライオンを峡谷に突き落としているような構図で、保護者と被保護者があべこべになっている。が、細かいことは言わないのが男である。
男として生まれた以上、細かなことは気にせずに、チャオチュールという高価なフードを棚買いする。そのくらいの胆力と金力は、男として持ちたいものだ。
ありがちな男論をタテに、チャオチュールを手に入れるため明日も着るぜ、スーツ。