相毎モコ

400字で書くことを心がけ

望郷の地 母間

訳あってひとりで朝を待たねばならなくなったinカラオケボックス。いわゆるヒトカラは思いのほかしんどい。
1人では休みがないのである。勝手に休めばいいだろうと言う人があるが、言われてみれば確かにその通りで、ひとりで勝手に休んだ。

しかしここはいったいどこなのか。カラオケボックスに違いない。カラオケボックスにいながらにしてただただ休む。なんという堕落、なんという不真面目、なんたる粗忽者だろうか。先祖やまだ見ぬ子々孫々に申し訳が立たない。

というかお金がもったいないですよね、という小市民的思考により、休みながらにしてカラオケボックスを堪能しようと頑張った。
自分はあまり世の曲を知らない。そらで歌えるのはスピッツの海とピンク、それとなぜか覚えている地元の町歌の二曲しかない。
こんなことでは人間的幅のない奴、と思われ昇進は不可能に近い。

そこで編み出したのは次の方法である。
まず各ボックスに備え付けの検索機で適当に曲名の頭文字を打つ。
すると候補がじゃんじゃん出てきて困る。
多すぎて困るので、3つくらいになるまで絞り込む。
3つから選ぶ。
こうすることで、未知の曲と出会うことが可能だ。未知との遭遇を果たし、人間的幅を拡大すればもはや昇進したようなものである。

結果として、この方法で出会えた印象的な曲は「母間音頭」である。

・母間音頭
徳島県徳之島町にある集落が母間であり、そこのローカル音頭かと思われる。
カラオケの背景はどこかの山村で、川に鯉が放流されていた。この山村は母間なのか。きっと違うだろう。母間が本当はどんなところなのか、気になって仕方がない。
何の縁もないのに、なんとなく母間に行ってみたくなってしまうから不思議である。
決めフレーズは「ソーレソレソレソーレ、母間興そ」。
ちなみに作者は義間さんで、惜しいようで惜しくない。

「なめくじくん」も印象的だ。

・なめくじくん
散々に虐げられ辛酸を嘗めてきたが、いつか皆に認められる存在となれるよう頑張ろう、となめくじ視点から歌い上げた名曲。最後のフレーズは「青い空にとどくまで 汚い壁を這いあがろ~」。
歌い手は、間寛平である。間寛平が歌手も兼ねていることを知らずに生きてしまっていた。勉強になる。

とにかく今の気持ちとしては、母間に行ってみたい。
隣でサザンオールスターズの「いとしのエリー」を歌っているが、サビの「笑ってもっとbaby」を「笑ってもっとベイビー」と歌っているのが気になって仕方ない。確かにベイビーなんだけどね。