相毎モコ

400字で書くことを心がけ

母の呼び方

昔の家にはあったけど最近の家にはないもの、それは台所の玉すだれ。というとあたかも昔の家を知っている風な感じだが、そんなものは自分の家にもなかった。私は27才の、そのへんに落ちているような働き人です。
とにかくこの玉すだれだが、人がすだれをくぐると玉同士がぶつかり音が生じて、誰かが入室したことが分かる、という代物である。この辺、えらいね、お母さんは。お母さんはなんと、この玉すだれがぶつかる音で家族の誰が入ってきたか、それが分かるらしいのね。台所に立って夕飯を作る。その背中が思い浮かんでしまいます、玉すだれ越しに。見たこともないのに。お母さんはたまに妙な能力を発揮する。

ところでそろそろ寝ようかね、と思って布団をかぶると猫が上に乗ってくることがある。そのまま上で丸まることもあれば、ただの通り道として踏みつけていくこともある。
丸まるか踏みつけか。どっちなのか。それが猫の布団への一歩目でなんとなく分かるようになった気がして、あの玉すだれのお母さんの感覚はこんな感じなのかもしらん。

ところで自分の母親を「お母さん」と人前で呼ぶ27才はどうなんだろうか。ちょっと恥ずかしくないだろうか。だからといって、いきなりお袋とか母さんとか母とか呼び方を変えるのも自分の中でぎこちない。
人の呼び方を変えるタイミングはけっこう難しい。