相毎モコ

400字で書くことを心がけ

斎藤さん問答 FILE1

 

昨日、仕事をサボタージュする聖域として名を馳せる会社の喫煙所で斎藤さんに「最近楽しいことありましたか」と聞かれた。
斎藤さんはいわゆる世間話、場つなぎとしてそれを聞いたので他意はないんだろうが、その真意は斎藤さんにしかわからん。ちなみに斎藤さんとは、職場で他部署の女子らから「廊下のiPadおじさん」と呼ばれている。常にiPadを持ちながら喫煙所と廊下を行き来しているのだ。

その斎藤さんから楽しいことありましたかなんて聞かれたので50秒くらい考えた。が、何も思いつかなかった。楽しくない、ということだ。そう思うと悲しくなってきた。なんの因果で悲しくならなければならないのか。それも仕事中に。俺だって楽しくありたかった。しかし楽しくないのだ、現に。楽しくないことがはっきりしてしまった。はっきりいって、あれもこれもすべて斎藤さんのせいである。
と斎藤さんのせいにする、斎藤さんに責任を押し付けるのは実に簡単で、気づけばなんでもかんでも他人のせいにしてしまいがちな私たち人間。誰もかれもが、環境破壊も、飢餓も、待機児童も、水不足も、非行の低年齢化も、増税も、離婚も、アル中も、所得格差も、肥満も、少子高齢化も、破産も他人に責任をなすりつけがちだ。

自分の外に原因を求めるのは簡単だ、しかしそれでは問題は解決しない、自分の外ではなく自分自身を変えること、そこから未来は拓けるのだよ。と7つの習慣を書いたおっさんは訴えていたような気がする。
おっさんのいうことも一理あるなあ。そう、すぐ他人のせいにしてはいけない。自分にこそ原因はあるのであるのである。
楽しいことがないのは自分が楽しい人間ではないからで、斎藤さんはなんの関係もない。できれば楽しい人間でありたかったと思う。楽しいことのない人生。楽しいことのない人間。

楽しいことはないが、集合アパートのポスト下によく落ちているマグネットを拾いがちな生活です。冷蔵庫なんかに貼れるあれだ。誰かがまとまった郵便物を持ち帰る際に落としたものだと思われるが、このマグネットは数日間放置されている、なんてこともざらにある。柴田理恵がイメージタレントになっている、水道修理の広告マグネット。柴田理恵マグネットが枯葉なんかと一緒に落ちているのは、なんだか忍びなく、それが数日間放置してあるのを見るたびに、拾って持ち帰って生きてきた。半年間。
半年間、打ち捨てられたマグネットを拾い集めたところ、今それは18個ある。柴田理恵は白髪のウィッグをかむり、おばあちゃん然としている。18の柴田理恵が笑っている冷蔵庫。その光景は案外壮観で、それが楽しいといえないこともないです。電気屋にたくさん並んだテレビ群を見ているみたいで、それが。

 

と斎藤さんに言えばよかった、あの時。あの時ああ言えばよかった、と思うことはこの先死ぬまでに何回あるのかわからないが、それを思うと恐ろしいですな。